仙台から、新幹線を乗り継いで三時間。長いような、短いような時間を経て、群馬県・T駅に到着した。
程よくざわめく駅の廊下をのんびりと渡り、ローカル線のプラットフォームへ。
列車は未だ来ていない。
1時間に1本ほどしか運行しない、田舎の私鉄だ。丁度良く乗り合せられるなどとは思っていないし、急ぐ必要もない。
肩の荷物をゆっくりと降ろし、ベンチに腰掛ける。
列車が出るまで、あと30分はあるようだ。
・・・良い風だ。上を見上げれば、晴れのような、曇りのような、中途半端な空。この季節の上州には、こんな空と風が似合っている。もう十分温かいのに、未だ桜は咲いていない。中途半端な季節だ。
ふと、煙草の一本でも吸いたくなる、が、生憎煙草など持ち合わせてはいない。前に何本か吸ってみた事はあるのだが・・・これでも、アマチュアとはいえ、歌うたいの端くれだ。すぐに止めた。そんなに美味くもなかったし。第一、生来私は呼吸器が弱いのだ。別に長生きしたいなどとは思わないが、徒に健康を害する気にもなれない。
しかし、良い風だ。故郷の匂いがする。具体的にどんな匂いか、と問われても説明の仕様は無いのだが。それに、そもそも実際には特別な臭いなどは無く、気のせいであるかもしれないのだし。
まぁ、そんなことはどうでも良い。いずれにせよ、この空気に気分が良いことは確かなのだし。
そんなことを考えていたら、ブレーキを甲高く軋ませて列車が入ってきた。同じくベンチに腰掛けていた人々が、ぞろぞろと中へ入ってゆく。まぁ、「ぞろぞろ」というほど多くも無いのだが。両手と、あとは足の指でもあれば十分事足りる数だろう。
私も、再び荷物を持ち上げて乗り込む。発車まで、あと20分はある。
列車の中の人は皆、一様に気だるげだ。空っ風の名残が小気味良い調子で開けっぱなしの車内を吹き抜けるなか、疲れたような、退屈したような表情で座り込んでいる。
平日の昼下がり。きっとテレビでは、浅黒い顔の司会者が主婦を相手に饒舌を振るっていることだろう。
プラットフォームでは数人の駅員が、地元の訛りで何かを話しながら、やけにゆったりとモップ掛けをしている。
暇な時間だ。しかし、決して退屈ではない。
ふと、ポケットの携帯が震える。取り出して見ると、メールが届いたようだ。
ダイレクトメールと、そうでないメールが数件。ダイレクトメールは読まずに消し、そうでない数件のうち一つを読む。
あまり良い報せではない。送信時間が昨日の日付なのも手伝って、心地が悪い。
また、風が吹き抜ける。少しだけ、肌寒く感じた。
そんなうちに、運転手がのろのろと入ってきて、発車を告げた。古臭い振動音を立てて、エンジンがかかる。列車が、ゆったりと動き出す。
背伸びしたようなビルの街角を抜けて、錆びた鉄橋を渡り、すぐに景色は田んぼと山に囲まれる。青々とした風景。駅員の居ない駅に止まっては、ばらばらと人を出し入れし、ゆったりと列車は走る。
老人は、また気だるげに席に着く。制服を着た少年少女たちは席には目もくれず、わざわざ壁に寄り立って、何かをぺちゃくちゃ喋っている。
列車はゆったりと進む。
幾つ目かの無人駅。私は、また重い荷物を持ち上げ、乗務員に切符を渡し、外に出る。
また、風に晒される。
駅舎から少し歩いて、前に母に注意されたことを思い出し、サングラスを外してジャケットに仕舞う。
田んぼの縁には、幼い頃から見慣れた小さな花が咲き連なっている。
心地良い風だ。
私は、故郷に帰ってきた。
程よくざわめく駅の廊下をのんびりと渡り、ローカル線のプラットフォームへ。
列車は未だ来ていない。
1時間に1本ほどしか運行しない、田舎の私鉄だ。丁度良く乗り合せられるなどとは思っていないし、急ぐ必要もない。
肩の荷物をゆっくりと降ろし、ベンチに腰掛ける。
列車が出るまで、あと30分はあるようだ。
・・・良い風だ。上を見上げれば、晴れのような、曇りのような、中途半端な空。この季節の上州には、こんな空と風が似合っている。もう十分温かいのに、未だ桜は咲いていない。中途半端な季節だ。
ふと、煙草の一本でも吸いたくなる、が、生憎煙草など持ち合わせてはいない。前に何本か吸ってみた事はあるのだが・・・これでも、アマチュアとはいえ、歌うたいの端くれだ。すぐに止めた。そんなに美味くもなかったし。第一、生来私は呼吸器が弱いのだ。別に長生きしたいなどとは思わないが、徒に健康を害する気にもなれない。
しかし、良い風だ。故郷の匂いがする。具体的にどんな匂いか、と問われても説明の仕様は無いのだが。それに、そもそも実際には特別な臭いなどは無く、気のせいであるかもしれないのだし。
まぁ、そんなことはどうでも良い。いずれにせよ、この空気に気分が良いことは確かなのだし。
そんなことを考えていたら、ブレーキを甲高く軋ませて列車が入ってきた。同じくベンチに腰掛けていた人々が、ぞろぞろと中へ入ってゆく。まぁ、「ぞろぞろ」というほど多くも無いのだが。両手と、あとは足の指でもあれば十分事足りる数だろう。
私も、再び荷物を持ち上げて乗り込む。発車まで、あと20分はある。
列車の中の人は皆、一様に気だるげだ。空っ風の名残が小気味良い調子で開けっぱなしの車内を吹き抜けるなか、疲れたような、退屈したような表情で座り込んでいる。
平日の昼下がり。きっとテレビでは、浅黒い顔の司会者が主婦を相手に饒舌を振るっていることだろう。
プラットフォームでは数人の駅員が、地元の訛りで何かを話しながら、やけにゆったりとモップ掛けをしている。
暇な時間だ。しかし、決して退屈ではない。
ふと、ポケットの携帯が震える。取り出して見ると、メールが届いたようだ。
ダイレクトメールと、そうでないメールが数件。ダイレクトメールは読まずに消し、そうでない数件のうち一つを読む。
あまり良い報せではない。送信時間が昨日の日付なのも手伝って、心地が悪い。
また、風が吹き抜ける。少しだけ、肌寒く感じた。
そんなうちに、運転手がのろのろと入ってきて、発車を告げた。古臭い振動音を立てて、エンジンがかかる。列車が、ゆったりと動き出す。
背伸びしたようなビルの街角を抜けて、錆びた鉄橋を渡り、すぐに景色は田んぼと山に囲まれる。青々とした風景。駅員の居ない駅に止まっては、ばらばらと人を出し入れし、ゆったりと列車は走る。
老人は、また気だるげに席に着く。制服を着た少年少女たちは席には目もくれず、わざわざ壁に寄り立って、何かをぺちゃくちゃ喋っている。
列車はゆったりと進む。
幾つ目かの無人駅。私は、また重い荷物を持ち上げ、乗務員に切符を渡し、外に出る。
また、風に晒される。
駅舎から少し歩いて、前に母に注意されたことを思い出し、サングラスを外してジャケットに仕舞う。
田んぼの縁には、幼い頃から見慣れた小さな花が咲き連なっている。
心地良い風だ。
私は、故郷に帰ってきた。
+ + + + + + + + + +
そんなわけで実家に帰ってきたのですよ。
まぁ、前に帰ったのが正月なので、2ヶ月ほどしか経ってないのですけど。
今回は、あまりゆっくりしている暇はないのですけどね。
まぁ、前に帰ったのが正月なので、2ヶ月ほどしか経ってないのですけど。
今回は、あまりゆっくりしている暇はないのですけどね。
PR